Construction column
環境問題と建築の関係を考えよう。「サステナブル建築」の特徴とその事例
2024.4.23
温暖化や廃棄物の増加といった環境問題に対処する策として、サステナブル(持続可能な)社会への転換が求められています建築分野においても、二酸化炭素の排出やエネルギー消費を抑えた、環境配慮型の建築「サステナブル建築」が推進されています。
サステナブル建築を達成するためには、どのような点に配慮すれば良いのでしょうか。今回の記事では、「建築と環境問題」をテーマに、建築が環境に与える影響やサステナブル建築の条件、実例について解説します。
この記事のポイント
- 建築業界と環境問題の関係が分かります
- 「サステナブル建築」の詳細と対策が分かります
- 「サステナブル建築」の実例が分かります
目次
サステナブル建築とは
サステナブル建築とは、設計、施工、運用、廃棄という建築のライフサイクル全てにおいて環境への負荷を可能な限り減らし、長期的に使用できることができる建築物を指します。この「環境」には、地域環境や建築物を利用する人の生活環境も含まれています。
サステナブル建築を通じて地球環境や生態系をはじめ、地域の環境や文化、利用者の安全性や利便性を守ることで、環境問題の解決や地域の持続的な発展に貢献できます。
建築工事が引き起こす環境問題
建築分野はサステナブル社会を実現するために非常に重要な役割を持っています。なぜなら、建築は材料の調達から施工、運用、廃棄の全段階において、環境に大きな負荷をかけているためです。
建築工事が引き起こす環境問題としては、以下のようなものが上げられます。
森林破壊
日本は建築材料である木材の多くを海外から調達しています。熱帯雨林や北欧の針葉樹林では森林破壊が進んでおり、生態系の破壊や二酸化炭素排出の増加による気候変動、新しい感染症拡大などさまざまなリスクが懸念されています。
また、木材の入手を海外に頼ることは、国内の森林を弱らせる原因になります。本来人工林は成長した木材を伐採し、植林をして若木を育てるというように、常に新しい木が育ち続けるのが健全な姿です。しかし、現在では木材は輸入が当たり前になり、監理の行き届かない人工林が増えています。増えすぎた木は細く密集し、高齢になるため二酸化炭素の吸収が悪くなってしまいます。
国産の木材を有効に使い、国内外の森林を守ることも「サステナブル建築」の対策のひとつです。
二酸化炭素の排出
地球温暖化の原因となる二酸化炭素排出増加の問題は、深刻化の一途をたどっています。建築業においても建築資材の生産や運搬、建設、運用、廃棄いずれの段階においても大量の二酸化炭素が生まれます。二酸化炭素排出量の1/3が住宅・建築物に関わるものとも言われており、二酸化炭素問題における建設業の責任は重いといえます。
エネルギーの消費
建築分野はエネルギーの消費量も非常に多く、約3割を占めています。建築資材の運搬や建築機械の使用、建築物の運用、廃棄物の運搬や焼却など、大量の燃料を消費するシーンが非常に多いためです。
日本のエネルギー需給率は極めて低く、13%程度しかありません(2021年度)。9割近くを化石燃料の輸入に頼っているため、国際情勢の変化を受けやすく、エネルギーの費用高騰や不足に陥ってしまう危険性があります。
廃棄物
建築物はいずれ老朽化し、取り壊しの時期を迎えます。その際に大量の産業廃棄物が排出されます。建設業における産業廃棄物の排出量はインフラ業と農業・林業についで多く、全体量3.7億tの2割程度を占めています※1。
廃棄物の処理には大量のエネルギーを要します。また、分別や再利用ができないゴミや燃焼後の灰は最終処分場で埋め立てられますが、埋め立て地の残余年数は20数年程度と予想されています※2。
日本の建築物は海外と比較して寿命が短く、取り壊しの頻度が高いことが産業廃棄物量を押し上げる原因となっています。長期的な使用に耐える耐久性の高さもサステナブル建築の条件の一つです。
※1 参考:環境省 産業廃棄物の排出及び処理状況(令和3年度速報値)
※2 参考:環境省 一般廃棄物の排出及び処理状況等(令和3年度)について
最終処分場の残余年数は令和3年度時点で残余年数23.5年と発表されている。
サステナブル建築の基準項目
サステナブル建築は地球環境だけではなく、地域や住民への多元的・統合的配慮が求められます。その認識により、サステナブル建築の基準項目は「地球の視点」、「地域の視点」、「生活の視点」の3つから構成されます。
それぞれの視点における環境配慮項目と具体的な方法は以下の通りです。
地球の視点
環境配慮項目 | 詳細や具体策 |
省CO2、節電 | 化石エネルギーを最小に抑える設計・運用 節電 |
再生可能エネルギー | 再生可能エネルギー(具体例)を推進する設計・運用 |
建物長寿命化 | 定期的な建物診断 外装や設備の定期的な修繕・交換 |
エコマテリアル | リサイクル材の使用 |
ライフサイクル | ライフサイクルコストの明確化 建設・維持管理にかかるコスト削減 |
グローバル基準 | グローバルな性能評価基準への対応 |
地域の視点
環境配慮項目 | 詳細や具体策 |
都市のヒートアイランド抑制 | 外構・屋上・壁面の緑化 保水床の導入 散水・打水など |
生物多様性への配慮 | 建設地の生態系の把握 工事中の環境汚染の防止・軽減 グリーン調達ガイドラインに則った資材の調達 |
自然・歴史・文化への配慮 | 景観や歴史・文化を尊重した建築物の設計・運用 |
地域や近隣への環境影響配慮 | 下記のような要因で地域や近隣を不快・危険な環境にしないよう配慮 環境汚染 交通量 日陰、騒音、振動、臭気、廃棄物 |
エネルギーネットワーク化 | CEMS、スマートグリッド等の導入 |
地域防災・地域BCP(事業持続性計画) | 自然災害の防災 ライフライン確保 |
生活の視点
環境配慮項目 | 詳細や具体策 |
安全性 | 平常時安全性(防犯・事故防止・弱者安全など) 非常時安全性(地震安全、BCP、火災安全) |
健康性 | CO2濃度や環境汚染物質 感染症対策 |
快適性 | 温熱、光、音など |
利便性 | エレベーターやエスカレーターの待ち時間を減らす ネットワークに配慮した建築物の設計・運用 |
空間性 | 眺望や広さ、色彩や食間、コミュニティ、緑化への配慮 |
更新性 | 可変性、拡張性、冗長性、回遊性、収納性に優れた建築物の設計・運用 |
サステナブル建築を読み解くキーワード
サステナブル建築を達成するためには、新しい考え方や資材、燃料に関する理解を深めることが重要です。
特に重要なキーワードをご紹介します。
再生可能エネルギー
再生可能エネルギーとは、自然界に常に存在するエネルギーです。石油や石炭とは異なり枯渇しないこと、CO2を発生させないことが大きな特長で、安定したエネルギー供給や環境負荷軽減の目的から利用が進められています。
現在、日本では以下の7種類が再生可能エネルギーと定義されています。
- 1.太陽光
- 2.風力
- 3.水力
- 4.地熱
- 5.太陽熱
- 6.大気中の熱その他の自然界に存在する熱
- 7.バイオマス(動植物に由来する有機物)
ZEH
ZEHは、Net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の略語です。生活で消費するエネルギーよりも、住宅で生み出されるエネルギーが上回る住宅を指します。ZEH住宅では省エネ機能や断熱素材に加え、太陽光発電などの創電システムの導入が重要になります。
エコマテリアル
地球環境に配慮したマテリアル(材料)の総称です。具体的には、環境に負荷をかけない生産や廃棄が可能なものや、エネルギーを有効に使うための材料などがエコマテリアルです。
建築材料におけるエコマテリアルの代表例は「木材」です。木材は本来、製造過程で消費するエネルギー量が少ないエコな材料です。海外の木材は運搬にエネルギーを使うため、国内木材の有効活用が求められます。
他には建設廃棄物や産業副産物をリサイクルして造られた再生骨材や路盤材などもエコリサイクルに含まれます。
エネルギーネットワーク
エネルギーネットワークとは、通信ネットワークを利用して、エネルギーを有効に活用するシステムの総称です。
エネルギーネットワークの具体的なシステムとしては、以下のようなものが挙げられます。
CEMS
Community Energy Management Systemの略語で「セムス」と読みます。地域に分散しているビルや工場などをネットワークでつなぎ、再生可能エネルギーを最大限活用して電力の需要と供給を適切に制御し、エネルギーを無駄なく活用するシステム
スマートグリッド
通信ネットワークを活用して電力量や流れをバランス良く制御して、電力利用を最適化するシステム
サステナブル建築の事例
最後にサステナブル建築の事例をご紹介します。
阪神甲子園球場
阪神甲子園球場は1924年に初の本格的野球場として誕生した「野球の聖地」です。2010年に「環境への配慮」をテーマの一つに据えたリニューアルが完了し、伝統と持続性を兼ね備えた新しい聖地へと生まれ変わりました。
耐震補強工事と鉄筋コンクリート部分の劣化防止対策が行われ、安全性がぐっと向上しました。それに加え、コンクリート打ちっぱなしの外壁はツタを植樹。爽やかなグリーンで外観が良くなっただけではなく、ヒートアイランド現象の緩和や空調効率の向上が望めます。
また、球場内照明のLED化や球場内空調機器等の省エネ化など、運用時のエネルギー削減も進められています。
あべのハルカス
あべのハルカスは、大阪市阿倍野区に立地する60階(地下5階)建ての高層ビルです。2014年にグランドオープンし、大阪市の新しいランドマークとして親しまれています。
運営元の近鉄不動産はサステナブル建築に力を入れており、あべのハルカスも環境に配慮した構造・設備が取り入れられています。
光や風の通り道を作り、快適性向上と省CO2につなげる「ボイド(吹き抜け)構造」、二重になったガラスの間に高遮熱ロールスクリーンを配置したダブルスキンウインドウ、緑あふれる屋上庭園など、省エネルギーや快適性の向上が望める工夫が多数なされています。
この先進的な取り組みにより、あべのハルカスは2016年に「第6回サステナブル建築賞」の「建築環境・省エネルギー機構理事長賞」を授賞しました。
六花の森プロジェクト
六花の森プロジェクトは、マルセイバターサンドで有名な北海道の製菓会社「六花亭製菓」が、工場の建設とその敷地全体の整備を目指した壮大なプロジェクトです。
北海道帯広市にある10haの土地が約10年をかけて整備され、2007年に「六花の森」が誕生しました。
まずは植生や地形の歴史を丹念に調査から始め、河川の跡を豊かなせせらぎに復活させました。その水辺を囲むように作られた緑の回廊には、水辺の草花がよみがえり、小動物も集まります。かつて荒れ果てた耕地であった六花の森は、人の技術と自然の力が融合した、緑と生命の溢れる場所に生まれ変わったのです。
その生物多様性と地域景観への配慮が高く評価され、六花の森プロジェクトは2011年に建築建築学会において学術・技術・芸術などの進歩に寄与した業績を表彰する「学会賞(業績部門)」を授賞しました。
まとめ
建築と環境問題の関係について解説しました。建築分野は特にエネルギーや資源の消費が著しく、環境への負荷が大きいことから、環境に配慮した施工・運用の促進が急務となっています。
持続可能性の高い「サステナブル建築」を実現させるためには、自然環境を始め、地域環境・生活環境をより安全、快適にするための施策を講じていく必要があります。
新しいシステムや設備を積極的に取り入れ、自然にも環境にも優しい、未来に残せる財産となる建築を目指していきましょう。