建築積算士の仕事内容・資格取得のメリットと勉強法|転職やキャリアアップにも

建築積算士は、建築プロジェクトでコスト管理を担う専門家です。
依頼する建築会社の比較や、入札時に使用される提示価格の基礎を算定することが主な役割です。
今回の記事では、建築積算の具体的な仕事内容、資格取得のメリットについて詳しくご紹介します。
転職活動やキャリアアップに有利な理由や、効率的な勉強法も解説。
これから建築積算士を目指す方や、資格取得を検討している方はぜひご覧ください。
この記事のポイント
- 建築積算士の概要と仕事内容
- 建築積算士の資格取得について
- 建築積算士試験に合格するための勉強法
目次
建築積算士とは

建築積算士とは、建築プロジェクトにおけるコスト管理の専門家であり、主に建築物を設計・施工する際に必要な費用を正確に見積もる役割を担います。
建築積算士は、設計図面や仕様書をもとに、使用する材料や工事費を算出し、プロジェクト全体の予算を組み立てる重要なポジションです。
建築積算士の資格は、もともと国土交通省が認定する資格としてスタートしましたが、2001年からは公益社団法人日本建築積算協会(JSSA)による認定資格となっています。
この移行により、資格の運営がより専門性を重視したものとなり、業界のニーズに対応した制度として発展してきました。
現在では、建築積算士の資格取得が、建築プロジェクトにおける信頼性や専門性を示す証として広く認知されています。
建築積算士の概要と仕事内容

建築積算士は、建築プロジェクトにおけるコスト管理のスペシャリストとして、設計から施工に至るまでの全体的な費用計算を担当します。
その役割は、設計者や施工者と密接に連携し、プロジェクトの成功を支える重要なポジションです。
主な仕事内容は以下のとおりです。
- ・資材数量の計算:図面を読み解き、建築に必要な材料の量を計算。
- ・工事費の見積もり:労務費や機械使用料を含む工事全体の費用を試算。
- ・発注コストの確認:資材や設備の発注コストが予算内に収まるよう管理。
- ・追加工事や変更のコスト調整:設計変更や追加工事が発生した場合の費用を迅速かつ正確に計算。
- ・コスト削減の実現:無駄を省き、最適なコストでプロジェクトを進行。
- ・透明性の確保:クライアントに対して明確なコスト情報を提供し、信頼関係を構築。
- ・持続可能な建築の推進:環境負荷を軽減する資材選定やエネルギー効率を考慮したコスト計算を通じて、持続可能な建築を支援。
積算の詳しい業務内容や注意点については、以下の記事でも確認できます。
建築積算士資格取得のメリット

建築積算士の資格所有者は、積算のスペシャリストとして認められ、キャリアアップに有利に働きます。
具体的なメリットは以下の通りです。
転職活動で有利になる
建築積算士の資格を取得すると、転職活動で有利に働きます。
代表的な転職先は以下のとおりです。
- ・ゼネコン
- ・建設会社
- ・住宅建売業者
- ・工務店
- ・積算事務所
また、官公庁への転職も視野に入ります。
先述の通り、公共工事では業者比較や適正価格の把握のために、精度の高い積算が必要になるのが理由です。
建築積算士は国家資格だったこともあり、国土交通省や地方自治体の建築関連部署といった公務員の認知度が高い点も強みといえます。
建築業界にホワイトカラー職で就職できる
積算は建築分野の職種でありながら、事務系(ホワイトカラー)に分類されます。
正しい費用を把握するために現地調査をすることもありますが、基本はデスクワークです。
リモートワークが普及する中、積算業務も在宅勤務に適しており、ワークライフバランスを重視する方にも適しています。
また、積算業務は高度な専門知識を活かせるため、知識を深めながら働き続けたい方にとって理想的なキャリアです。
給与やキャリアアップにつながる
建築積算士の資格を取得することで、昇給、昇進できる可能性もあります。
建築積算士の年収は企業規模や勤続年数によっても異なりますが、400〜900万円程度が相場です。
中には年収1,000万円以上を得ているケースもあり、建設業としてもトップクラスの年収を狙える可能性もあります。
また、資格手当を受給できる場合もあります。
建築積算士の資格手当は企業によって異なりますが、月額5,000〜10,000円程度が多いようです。
また、建築積算士の上位資格である建築コスト管理士を取得することで、さらなる昇給やキャリアアップを目指せます。
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建築積算士の資格試験について

建築積算士の資格を取得するためには、公益社団法人日本建築積算協会が実施する資格試験に合格する必要があります。
試験は一次試験、二次試験があり、原則として※一次試験合格者のみが二次試験を受験可能です。
※所定の資格所有者、または公益社団法人日本建築積算協会が実施する積算学校卒業生は一次試験免除
建築積算士の受験資格
建築積算士試験は17歳以上であれば学歴や実務経験の有無に関わらず、誰でも受験できます。
他分野から建築業界に転職したいという方にも取得しやすい資格です。
建築積算士の難易度
2023年度の建築積算士の受験者数と合格率は以下のようになっています。
実受験者数 | 合格者数 | 合格率 | |
一次試験 | 430人 | 285人 | 66.3% |
二次試験 | 988人 | 613人 | 62.0% |
出典:公益社団法人 日本建築積算協会 建築積算士認定事業による2023年度建築積算士一次試験実施結果
出典:公益社団法人 日本建築積算協会 建築積算士認定事業による2023年度建築積算士二次試験実施結果
一次試験、二次試験ともに合格率は60%程度です。
二級建築士の合格率が25%程度、建築施工管理技士二級の合格率が30%程度であることを考えると、建築分野の中では難易度が低いといえるでしょう。
建築積算士の試験内容
建築積算士試験の問題は、公益社団法人日本建築積算協会が発行する「建築積算士ガイドブック建築積算士試験」に沿って出題されます。
出題される科目としては、以下のようなものが挙げられます。
生産プロセス | ・建設産業の特徴と変遷及び現状 ・コストマネジメントの考え方 ・建築生産プロセスとマネジメント |
工事発注スキーム | ・入札の種類 ・発注方式 ・契約方式 ・数量公開 ・発注単位 |
設計図書構成 | ・設計図書構成と種類 ・優先順位 |
工事費構成 | ・直接工事費と共通費の構成 ・主要建物用途の種目別工事費構成比率 |
積算業務内容 | ・積算業務の流れ ・積算実務(仮設、土工、躯体、仕上、設備、屋外施設、改修) ・概算手法の概要、値入業務 |
数量積算基準 | 基準及び同解説の理解 |
標準内訳書式 | 基準及び同解説の理解 |
主要な市場価格 | ・市場価格 ・コスト情報の入手方法 |
データ分析と積算チェック | ・データ整理 ・歩掛 ・分析方法 ・積算チェック |
施工技術概要 | ・建築施工プロセス ・標準的な施工法 _特殊工法(省力化、工業化、工期短縮等) |
LCC・VE概要 | ・LCC(ライフサイクルコスト)の概要 ・VE(バリューエンジニアリング)の概要 |
木造建築概算 | |
BIM(Building Information Modeling)概要 | |
改修工事・解体工事概要 | |
環境配慮概要:環境配慮とコスト概要 |
出典:公益社団法人 日本建築積算協会 2024年度「建築積算士」試験案内
試験方法と出題形式は以下の通りです。
試験時間 | 問題数 | 問題形式 | |
一次試験 | 3時間 | 50問 | 4 肢択一 |
二次試験(短文記述試験) | 1時間 | 2問 | 問題に対する解答を短文(200字以内)で記述 |
二次試験(実技試験) | 4時間30分 | 4分野 | ・図面に基づき、数量を計測・計算 ・内訳明細の作成 |
出典:公益社団法人 日本建築積算協会 2024年度「建築積算士」試験案内
合格に必要といわれている勉強時間
建築積算士の資格試験に合格するためには、平均300時間程度の学習が必要とされています。
ただし、受験者の実務経験や知識の習得度に応じて、この勉強時間は増減します。
試験は学科試験と実務試験の2部構成で、それぞれ異なる対策が求められるので注意しましょう。
<例>
- ・学科試験対策(約150時間):基本的な知識の習得・過去問演習 など
- ・実務試験対策(約150時間):図面の読み方を習得・計算問題への慣れ・試験形式に慣れる など
建築積算士の試験に合格するための勉強法

建築積算士は、未経験でも取得可能です。
しかし、合格率は60%と、難易度は高くないものの誰もが合格できる試験ではありません。
建築積算士の試験に合格するための効果的な勉強法を紹介します。
建築積算士ガイドブックを十分に読み込む
先述の通り、建築積算士試験は建築積算士ガイドブックから出題されます。
建築積算士ガイドブックには試験問題と例題が提示されており、試験のテキストとして活用できます。
ガイドブックを十分に読み込み、内容を理解することが一番の勉強法です。
建築積算士ガイドブックは改訂されることもありますので、必ず最新版を用意しましょう。
公益社団法人日本建築積算協会の「書籍申込フォーム」から申し込むと、確実に最新版が手に入ります。
過去問を繰り返し解いて実戦形式に慣れる
日本建築積算協会のホームページには、2011年度〜2023年度の過去問が掲載されています。
実際に解いてみることで、実戦形式に慣れましょう。
特に実技試験は、4時間30分という長時間で実際に積算をする特殊な形式のため、本番でどのような問題が出題されるのか、過去問から学んでおくと安心です。
ただし、あまりに古い過去問は当てにできません。
法改正などにより現行と内容が異なっていたり、出題傾向が変わっていたりすることがあることが理由です。
過去問を解く目的は、時間配分や出題形式、自分の苦手分野を把握することです。
まずは最新のガイドブックを良く読み、正しい知識を得た後で、過去問に取り組みましょう。
積算学校や積算教室に参加してみる
公益社団法人日本建築積算士協会は、積算の知識を広く提供する機会を多数設けています。
代表的なものが「積算学校」「積算教室」です。
積算学校では、積算技術者の養成を目的とした実践的なカリキュラムが組まれています。
卒業生は一次試験が免除される点も受講の大きなメリットです。
積算教室は積算学校より短期で開催されるもので、主要な積算業務に限定された内容です。
仕事が忙しい人も、効率良く積算について学べます。
加えて、社会経済の変化や建設業の動向に沿った建築マネジメントの知識を伝える講習会や研究会も開催されています。
積算業務従事者だけでなく、幅広い層を対象とした内容であり、未経験者にとっても学びの多い内容と言えるでしょう。
建築積算士以外の積算に関わる資格

建築積算士以外にも、公益社団法人日本建築積算士協会の認定資格として「建築積算士補」と「建築コスト管理士」があります。
概要と取得方法を以下にご紹介します。
建築積算士補
建築積算士補は、積算の基礎知識を有していることを認定する資格です。
建設コストや積算の知識・意識の浸透及び、取得者の建築積算士・建築コスト管理士へのキャリアアップを図る人材が増えることを期待して、2009年4月1日に創設されました。
認定校における建築積算講座を受講し、所定の単位を取得することで受験資格を得られます。
建築積算士補の資格所有者は建築分野の就職に有利になる可能性があります。
積算のスペシャリストへのキャリアアップを目指す意欲があると見なされるためです。
また、建築積算士の一次試験が免除され、二次試験の受験料が半額になる点もメリットです。
建築コスト管理士
建築コスト管理士は、積算業務の最上位資格です。
積算業務をさらに拡大させ、建築計画の構想から設計、施工、維持、保存、廃棄まで、建築物のライフサイクル全般においてコストマネジメントを行います。
2005年1月に設立され、2006年4月1日に新資格者が誕生しました。
以下のいずれかの条件を満たすと、受験資格を得られます。
(1)建築積算士の称号を取得後、更新登録を1回以上行った方
(2)建築関連業務を5年以上経験した方
(3)一級建築士に合格し登録した方
なお、過去年度の学科試験の合格基準点を超えた場合、次年度以降2年間学科試験が免除されます。
まとめ|積算業務に興味のある方はMACにご相談ください

積算業務は、建設工事に必要な費用を算出する重要な業務です。
建築分野の中でもホワイトカラーの業務であり「建築関係の仕事に就きたいけれど、現場仕事をする体力はない」という方にとっては一つの選択肢になります。
無資格でも積算業務に携わることはできますが、建築積算士の資格があるとより有利です。
建築積算士の資格試験は学歴や実務経験に関係なく受験可能で、合格率は6割程度と、建築士や施工管理技士と比較してやや高め。
公益社団法人日本建築積算士協会のガイドブックをしっかり読み込み、積算の知識を理解すれば、未経験者でも資格を取得できるでしょう。
積算業務に興味のある方は、ぜひMACにご相談ください。
建築分野の就職に関して、プロフェッショナルの立場からアドバイスいたします。
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