「資材価格の高騰で、当初の計画通りでは予算オーバーになりそうだ」
「品質や性能を落とさずにコストダウンするアイデアを求められている」
「現場でのVE提案と言われても、具体的にどう話を進めればいいかわからない」
近年の建設業界では、材料費や人件費の上昇に伴い、いかにして企業としての利益を確保するかが大きな課題となっています。そこで重要視されているのが「VECD」という考え方です。
単なる「安かろう悪かろう」のコストカットではなく、「無駄」を省き、機能や品質を維持・向上させながらコストを最適化するVECDの手法は、優秀な施工管理技士の必須スキルとも言えます。
本記事では、VECDの基本的な用語の概要から具体的な進め方のポイント、そしてVECDのスキルが評価される「発注者支援業務」との関係について紹介します。
VECD(バリューエンジニアリング・コストダウン)とは何か?

VECDとは、「VE(Value Engineering)」と「CD(Cost Down)」を組み合わせた造語、あるいは一連の活動を指す言葉として建設現場で使われています。それぞれの違いや目的を理解しておきましょう。
VE(バリューエンジニアリング)
製品やサービスの「価値」を、機能とコストの関係で捉え、その価値を上げる(最大化する)ための手法です。計算式で表すと以下のようになります。
価値(Value) = 機能(Function) ÷ コスト(Cost)
つまり、コストを下げても機能を維持する、あるいはコストが変わらなくても機能を向上させることで「価値」を高める活動を指します。
CD(コストダウン)
他の工法への変更や調達ルートの見直しなどにより、単純に工事原価(金額)を下げる活動です。VEと重なる部分も多いですが、より直接的な経費削減のニュアンスで使われることがあります。
公共工事においては、これらを総合して「VE提案」としてゼネコン(受注者)が発注者に提出し、承諾を得ることで設計変更や評定点の加点につなげます。
VECDの活用によるメリット

VECDを適切に利用・導入することで、受注者と発注者の双方にさまざまなメリットが生まれます。
1. 利益率の向上(受注者側)
同じ機能を別の安価なメーカー製品で実現したり、施工手順を短縮して労務費を削減したりすることで、工事原価を抑え、企業の利益を増やすことができます。
2. 予算内での工事実現(発注者側)
限られた予算の中で、発注者が求める品質や機能を実現できます。特に公共工事では、税金の有効活用の観点から高く評価されます。
3. 技術力の証明と評価アップ
的確なVECD提案ができることは、図面を読み解く力や資材に関する情報が豊富であることの証明です。これは工事成績評定点の向上や、数年後の次回の入札での評価につながります。
VECDの提案方法とプロセス

現場で実際にVECD提案を行う際は、論理的な裏付けが必要です。全体の計画を見据えた、一般的なプロセスは以下の通りです。
ステップ1:情報収集と機能分析
まずは設計図書や仕様書を読み込み、「その部分に求められている本当の機能(役割)」は何かを定義します。
例:「この建物の壁の役割は『遮音』なのか、構造上の『耐力壁』なのか、単なる『間仕切り』なのか?」
例:「この設備スペックは過剰ではないか?」
ステップ2:代替案の作成
定義した機能を維持しつつ、コストを抑えられる代替案を検討します。
例:「特注の既製品ではなく、汎用品を組み合わせて代用できないか」「現場打ちコンクリートをプレキャスト化して工期短縮できないか」
ステップ3:比較・検証
原案(当初設計)と代替案を、コスト、工期、品質、メンテナンス性などの項目で比較表にまとめます。ここで「安くなるが耐久性が落ちる」といったネガティブ要素がないか、施工前の段階で厳しくチェックします。
ステップ4:発注者への提案・協議
作成した資料をもとに発注者へ提案し、承諾を得ます。公共工事の場合、ここで「契約変更(設計変更)」の手続きが必要になります。
VECDを導入する際の注意点

コストを意識するあまり、以下のような失敗(やってはいけない事)をしないよう注意が必要です。
- 必要な機能の低下: 必要な構造強度や耐震性を犠牲にしてコストを下げてはいけません。仕様書で求められるグレード(品質)以上を確保する必要があります。
- 法令違反: 建築基準法や消防法などの法令、あるいは公共工事標準仕様書に抵触しないか確認が必要です。
- 発注者との合意不足: 勝手に仕様を変更することは契約違反です。必ず書面での承諾を得るプロセスを経てから施工する必要があります。
発注者支援業務とVECDとの関係

ここまで「受注者(ゼネコン等)」の視点でVECDを解説してきましたが、実はこのプロセスにおいて「審査する側」の重要な役割を担っているのが、発注者支援業務の技術者です。
提案を審査・評価する立場へ
公共工事において、建設会社から提出されたVE提案書をチェックするのは、多忙な公務員だけではありません。発注者支援業務のスタッフが、以下のような視点で技術的な審査をサポートしています。
- 「この変更を行っても、公共施設としての安全性は保たれるか?」
- 「提示された削減金額は適正か?(安すぎて品質に影響はないか)」
- 「工期短縮の根拠は妥当か?」
現場経験が最大の武器になる
VECDの提案を正しく審査するためには、現場の実態を知っている必要があります。
「机上の空論ではなく、現場では本当にその施工が可能なのか」を判断できるのは、実際に現場監督として多くのVECDに取り組んできた経験者だけです。
つまり、あなたが現場で培った「どうすれば効率よく、安く、良いものが作れるか」という知恵は、発注者側の業務において極めて高い価値を持つのです。
まとめ
VECDは、建設現場のコストと品質を最適化する重要な手法です。このスキルを磨くことは、現場監督としての評価を高めるだけでなく、将来のキャリアの選択肢を大きく広げることにつながります。
もしあなたが、
「コストダウンのプレッシャーに追われるのではなく、適正な価格で良い工事が行われるよう管理したい」
「自分の技術知識を、公共事業の品質向上のために使いたい」
「提案する側から、それを評価・採用する側(発注者側)に回りたい」
と考えているなら、「発注者支援業務」へのキャリアチェンジを検討してみてはいかがでしょうか。
発注者支援業務では、建設会社からのVE提案を審査し、設計変更資料の作成支援などを行います。現場の改善提案が形になり、地図に残る仕事に関われるやりがいは格別です。
あなたの「提案力」を、発注者側で活かしませんか?
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