国土強靭化計画とは?防災・減災を目指す取り組みをわかりやすく解説します!
近年、日本各地で地震や台風により、甚大な被害が発生することが多くなりました。
災害による爪痕は大きく、復旧・復興には時間がかかってしまい、被災者には身体的にも精神的にも大きな負担となっています。
そこで、政府は災害が発生した場合でも被害を最小限に抑え、速やかに復旧・復興できる体制作りである「国土強靭化」に取り組みを開始しました。
本コラムでは、国土強靭化についての概要やその背景、取り組みについて解説します。
目次
国土強靭化とは
国土強靭化は、大規模な自然災害などに備え、事前防災や減災により被害を最小限に抑え、迅速な復旧・復興が可能となる、強くてしなやかな国づくりを目指す取り組みです。
「ナショナル・レジリエンス」とも呼ばれ、2013年12月には「国土強靭化基本法」が成立しました。
2011年3月に発生した東日本大震災を教訓に、災害発生時において「人命の保護」、「被害の最小化」、「経済社会の維持」、「迅速な復旧・復興」の4つの項目の達成を目指しています。
国土強靭化は、国民の生命・財産を守り、安心・安全な生活づくりを実現し、国だけでなく地域単位で災害から迅速な立て直しを図る政策です。
国土強靭化の背景
日本において防災意識のきっかけとなったのは、1959年に発生した伊勢湾台風です。
死者・行方不明者5,098名、負傷者3万8,921名にも上る人的被害が発生し、日本の台風災害史上最悪の惨事をもたらしました。
伊勢湾台風をきっかけとして、日本の防災対策の原点となる「災害対策基本法」が1961年に制定されています。
1995年に発生した阪神・淡路大震災は、日本における防災意識を高める契機となり、住宅や建築物の耐震化、木造住宅密集地における対策強化、インフラの耐震性の強化が全国で進められました。
さらに、2011年の東日本大震災による大きな被害を目の当たりにし、政府はこれまでのようなインフラ中心の防災対策では不十分と考えるようになったのです。
このような背景から政府は、人命を守り、経済社会の被害が致命的になものにならず迅速に回復する「強さとしなやかさ」を備えた国土、経済社会システムの構築を目指す「国土強靭化」に取り組むようになりました。
国土強靭化の取り組み
ここからは、国土強靭化のために国が取り組んでいることを具体的に見ていきます。
国土強靭化の取り組みにはハード面とソフト面の2つがあります。
ハード面での取り組み
まずは、ハード面の取り組みからみていきましょう。ハード面の取り組みとは、防波堤の設置や防災林の整備など、土木における防災・減災を指します。
海岸や河川の堤防の整備
東日本大震災では、既存の堤防を超えるほど大きな津波が押し寄せることになり、想定外の大被害が発生しました。
また、近年発生している台風や大雨によって、甚大な浸水災害が発生した地域もあり、海岸や河川にある堤防について見直す動きが出てきています。
堤防の高さや強度については、定期的な見直しと整備が行われています。
海岸防災林の整備
海岸や河川の堤防の整備とともに、海岸防災林の整備も国土強靭化の取り組みの一つです。
海岸防災林は、飛砂や潮風、風害から農地や居住地を守り、津波のエネルギーを弱めるなどの防災機能があります。
また、豊かな生態系を育むことやレクリエーション、環境教育の場などさまざまな役割が期待されています。
海岸に近い居住地などに海岸防災林を設置することで、環境にも優しい災害対策が可能です。
避難施設・避難経路の整備
大規模な自然災害が発生すると、多くの帰宅困難者が発生します。東日本大震災時にも、多くの人々が帰宅困難者となり、受け入れ施設が少なく、混乱を招く結果となりました。
現在、帰宅困難者に対応するために、避難施設の増加や、施設あたりの受け入れ人数の増加を官民一体となって進めています。
また、震災や津波発生時には、迅速な避難が重要です。そこで、高台などの避難場所へ迅速かつ安全に向かうことができる避難経路の整備も進められている最中です。
避難経路の整備については、自治体にもよりますが補助金によるサポートも行っており、地域をあげて対策に向き合っていることが分かります。
建設物・公共施設の耐震化
住宅を新築する際に、耐震性能を気にする方が増加中です。耐震性の高い住宅を建てたり、耐震リフォームを行う際には、補助金や税制優遇が利用できるなど、国も耐震性の高い住宅に力を入れています。
また、学校や図書館などの公共施設でも耐震化が進められており、災害時には避難所として活用することが可能です。
さらに、観光地においても耐震能力を高めるため、定期的な点検はもちろん、整備を行うために休館にするなどの対策が取られています。
耐震化は、大規模な建て替えから住宅における家具の固定など、幅が広く、個人で取り組むことも可能です。
政府レベルの大掛かりなものだけでなく、民間企業や個人レベルで、できることから始めるのが耐震化においては重要なポイントかもしれません。
ソフト面での取り組み
続いて、ソフト面での取り組みを紹介します。ソフト面とは、ハザードマップの活用や避難訓練など、意識レベルでの防災・減災への取り組みです。
ハザードマップ作成・活用
ハザードマップとは、水害などの自然災害による被害を予測し、可視化した地図のことをいいます。
地域ごとに災害の発生地点はもちろん、被害が予想される場所や被害の内容がイメージできるため、災害による被害を抑えることが可能です。
具体的なハザードマップの例としては、「洪水ハザードマップ」、「土砂災害ハザードマップ」、「津波ハザードマップ」などがあります。
ハザードマップには、避難経路や避難場所、防災関連施設の位置が掲載されていますので、災害時の避難の際に大いに役立つでしょう。
ハザードマップは、避難時に活用するだけでなく、避難経路や避難場所を把握しておくために、散歩しながら確認するなど、普段から一人ひとりが心がけておくことをおすすめします。
防災教育・避難訓練
防災教育として最も身近なものといえば、学校で定期的に行われている避難訓練をともなう防災教室でしょう。
近年では、消防などが参加して、マンションなど集合住宅における住民の避難訓練も実施される機会が多くなっています。
地域と連携し、日頃から協力し合える関係を構築しておくことも重要です。
防災・減災、国土強靭化のための5ヶ年加速化対策とは
令和2年12月に閣議決定されたのが、「防災・減災、国土強靭化のための5ヶ年加速化対策」です。
国民の生命・財産、国家や社会の重要な機能を災害から守るため、国土強靭化の取り組みを加速し、より深めていくことを目的としています。
令和3年度から令和7年度にかけて、政府全体で15兆円、国土交通省で9.4兆円を目途とした事業規模で、集中的な対策を講じる予定です。
具体的には、以下の3つについて重点的な対策を講じることになります。
- 激甚化する風水害や切迫する大規模地震等への対策(78対策/概ね12.3兆円)
- 予防保全型インフラメンテナンスへの転換に向けた老朽化対策(21対策/概ね2.7兆円)
- 国土強靭化に関する施策を効率的に進めるためのデジタル化等の推進(24対策/概ね0.2兆円)
これら3点について、重点的に対策を行い、災害に負けない強くしなやかな国土づくりが推進されます。
まとめ
地震や台風など、自然災害が多発する日本において、被災地の復旧・復興が迅速に行われるようになることは重要です。
現在、国を上げて取り組んでいる国土強靭化は、さまざまな自然災害が引き起こした被害を教訓として進められています。
これらの取り組みのすべてを国や地方公共団体に任せるのではなく、国民一人ひとりが意識しておくことで、災害時の混乱を抑えることが可能になることでしょう。
国土強靭化にも関連する公共工事で活躍することができる仕事に、発注者支援業務があります。
国や都道府県などの自治体や、官公庁などが発注する公共事業の発注業務をサポートする仕事です。
公務員と同じような年間休日や勤務時間など職場環境も整っており、安定的な仕事であることも魅力のひとつでしょう。
興味がある方は、国民の生活を支えるインフラ整備に関われる「発注者支援業務」の仕事に携わってみませんか。