Construction column
一般企業の会計とは別もの?何が違うの?建設業会計について詳しく解説します!
2023.7.29
建設業界の会計には、他の業界や業種とは異なる特殊性があります。そのため、建設業で会計を担当する人は、一般的な会計の知識がある場合でも難しいと感じるようです。
建設業務を円滑に進めていくためには、建設業界における特殊な会計方法を理解しておくことが重要になります。
本記事では、建設業会計について基礎的な知識や、一般企業の会計との違い、建設業会計における特殊な2つの基準について解説します。
目次
建設業会計とは
建設業は、工事着工から完成・引渡しまでに短くても数ヶ月、長い場合だと数年かかることもあるという特殊な業界です。
建設業界は、他の業界と比べても売上高を計上するまでのサイクルが長くなっており、完成した際に多額の売上高が、一度に計上されることになります。
建設業の会計処理も、一般的な企業会計と同様に企業会計規則をベースとして処理を行いますが、建設業の特殊性を考慮した会計基準が設定されています。それが「建設業会計」です。
基本的な考え方として建設業会計は、工業簿記に調整を加えたものとされています。
しかし、勘定科目において「売上高」が「完成工事高」に、「仕掛品」が「未正工事支出金」と変更されていたり、後に詳しく説明しますが、売上高の計上基準が2種類あったりと、特殊な知識が必要です。
どれほど特殊な知識が必要かというと、建設会社で正しい会計処理を行う資格として、国土交通大臣登録経理試験で、一般財団法人建設業振興基金が実施する「建設業経理事務士」という資格があるほどです。
一般企業の会計と建設業会計は何が違うのか
建設業会計は一般的な企業会計とは違うという点をご理解いただけたと思います。
建設業会計と一般的な企業会計の違いは、主に「勘定科目」、「原価計算」、「2つの工事収益計上基準」の3点です。
以下で、違いを見ていくことにしましょう。
勘定科目
建設業会計には特徴的な勘定科目が多くあり、一般的な企業会計に慣れている人でも戸惑うかもしれません。
以下に、建設業会計の特徴的な勘定科目を記載します。
- 完成工事高:完成した工事の対価として得られる売上。「売上高」に該当する。
- 完成工事原価:建設業会計特有の勘定科目で、完成工事高を得るために直接的に支払ったコスト。「売上原価」に該当する。
- 完成工事総利益:完成工事高から完成工事原価を差し引いたもの。「売上総利益」に該当する。
- 未成工事支出金:完成工事原価に計上していない工事費用(材料費、労務費、経費、外注費など)のこと。「仕掛品」に該当する。
- 完成工事未収入金:計上済みの完成売上高のうち、未回収のもの。「売掛金」に該当する。
- 未成工事受入金:引渡しが終わっていない工事の請負代金を受け取るなど、未完成の工事の対価として受け入れたお金のこと。「前受金」に該当する。
- 工事未払金:工事原価である材料費や労務費などのうち、まだ支払いが済んでいないもののこと。「買掛金」や「未払金」に該当する。
このように、建設業会計では、一般的な企業会計とは異なる表現の勘定科目があるため、会計知識のある人でも、難しく感じてしまうのです。
また、建設業においては「建築業法」のなかで勘定科目が定められているため、一定の条件にかかわる会計について、法律を遵守しなくてはいけません。
原価計算
多くの建設業者が採用している原価計算は「個別原価計算」です。
一つの案件の規模が大きい建設業においては、案件をまとめてではなく、一つの案件ごとに原価を集計していきます。
ある建築物を建てる建設プロジェクトを受注した場合を考えてみましょう。
建設会社では、受注した建設プロジェクトに工事番号を設定し、材料費や労務費、経費など、かかった費用に対応する工事ごとに工事番号を交付して集計します。
直接的に工事に割り振ることができない経費に関しては、間接費として一定の基準で配分しておき、最終的に工事ごとに原価を割り当てるという対応が必要です。
企業ごとに異なりますが、会計処理を行う上で、完成工事原価としての各費目、未成工事支出金としての各費目を勘定科目としてそれぞれ保持しておき、完成工事高を計上するタイミングで振り替える等、対応していくことになります。
2つの工事収益計上基準
上記の通り、建設業会計においては、会計処理の仕方が一般的な企業とは異なっています。
その理由は、繰り返しになってしまいますが、建設業では工事期間が長くなり、会計期間をまたぐことも珍しくないからです。
そのため、工事収益計上のタイミングが引渡し時のみとなると、工事期間中は売上がまったく無いということになってしまいかねないのです。
そこで、建設業会計では、2つの異なる工事収益計上基準があります。
その2つの基準が「工事完成基準」と「工事進行基準」です。この2つの基準については、次章で詳細を解説します。
工事完成基準と工事進行基準
建設業会計においては、工事完成基準と工事進行基準という2つの異なる収益計上基準があります。
従来利用されていたのは工事完成基準でしたが、2009年4月からは原則として工事進行基準が適用されることになりました。
また、2021年4月以降は大企業においては、新基準である「収益認識基準」が適用されています。
なお、本コラムにおいては従来通りの基準である工事完成基準、工事進行基準を解説させていただきます。
工事完成基準とは
工事完了基準とは、工事が完了した時点で売上と経費を計上する方法です。
工事完了基準は、長期間にわたる工事が終了し、完成物を引き渡して収益の金額が確定した時点で完成と考え、工事契約の金額全額を収益として計上します。
工事完了基準を適用することで、工事契約のリスクを分散させることができ、会計上の確実性が強いというメリットがありました。
ただし、工事完了基準には、工事が完了するまで収益を計上することができないため、収益の安定性が低下することや、工事完了まで赤字かどうかが分からないというデメリットもあります。
現在は、工事進行基準が原則として適応されており、一定の基準を満たさない場合以外では工事完成基準が適用されることはほとんどありません。
工事進行基準とは
2009年4月から、長期大規模工事と認められる案件の場合には、原則として工事進行基準が適用されることになりました。
工事進行基準は、開発期間中や進行途中の段階の工事において、売上や経費を進捗状況に応じて、その都度売上と経費を計上します。
工事完成基準では、工事中に修正や追加が入り、完成後に赤字になってしまうなどの問題点がありました。
工事進行基準が適用されるようになり、工事中の修正や追加について、その都度計上ができることで大幅な赤字を回避することが可能です。
しかし、工事進行基準では契約時に複雑な内容を詳細に説明する必要があるため、営業の負担が大きくなります。
また、契約時にカウントされる費用関係の操作も可能なため、不正を行う余地があるのではないかという世間の厳しい目に晒されることについても認識が必要です。
まとめ
建設業界で会計の仕事に就きたいと考えている人は、ぜひ建設業会計の考え方を学んでおくことをおすすめします。
企業での会計の経験がある人でも、勘定科目の違いや2つの工事収益計上基準が存在するため、戸惑ってしまうことが多いでしょう。
今現在、建設業会計の業務に就いているという人は、建設業経理士の資格に挑戦するのも良いかもしれません。
建設業界の会計について専門的な知識を有していることで、プロとしての立場から会社に貢献ができるでしょう。
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