社会インフラの老朽化を事前に察知!私たちの生活を守る調査点検業務とはどんな仕事?
高度経済成長期以降、日本は社会インフラの整備が進められてきましたが、現在に至り、急速な老朽化が指摘されており問題となっています。
今後20年間で、建設後50年以上を経過する施設が多くなることも指摘されています。そこで重要な業務となるのが、調査点検業務です。
本コラムでは、今後、重要度が増して来るであろう調査点検業務について解説します。
調査点検業務とは
調査点検業務は、「調査」と「点検」の2つの業務に分けられます。まずは、「点検」業務から見ていきましょう。
点検業務は、地味な作業と思われがちですが、基本中の基本となる業務です。橋梁やトンネルなどの構造物は、時間の経過とともに劣化していきます。また、環境的な要因や外からの力がかかることによっても劣化が進みます。
点検業務は、そのような劣化の状態を確実に発見し、将来的な危険性を防ぐ重要な業務です。
点検業務では、橋梁や歩道橋、トンネル等の定期点検を行います。橋梁などにおいては、コンクリート片落下による第三者への人的・物的被害を防止するための第三者被害防止措置を行うこともあります。
さらに、地震などの大災害が発生した場合には、緊急点検を行うのも点検業務のひとつです。
続いて、調査業務について解説します。点検業務が、交通インフラの劣化状況を確認する業務であるとするならば、調査業務は、点検で発見した劣化箇所についての診断を行う業務であると言えるでしょう。
点検によって、劣化が確認された箇所について、どの部分が一番劣化が進んでいるのかや、何が原因で劣化が進んでいるのかなどを行うのが調査業務です。
例えば、構造物の劣化や損傷の状況を把握するために行う、コンクリートのひび割れ調査に代表される標準調査や、磁粉探傷試験や超音波探傷試験などを行います。
つまり、「点検」によって確認された劣化状況について、劣化・損傷の程度や原因を「調査」するのが、調査点検業務です。
調査点検業務の重要性
日本におけるインフラの老朽化が問題視され始めたのは、2012年12月に発生した、中央自動車道笹子トンネルの天井崩落事故が発生したことからでした。
国は、この事故をきっかけとして、トンネルや橋について5年に1度の点検を義務化しましたが、多くのインフラについて老朽化が進んでおり、修繕が必要であることが判明したのです。
社会インフラは、人の手によって、さまざまな部材を使って作られており、年数の経過や環境の影響を受けることで、徐々に劣化してしまいます。
コンクリートのひび割れや、金属の腐食など、経年劣化によるインフラの老朽化は、多くの人々の安全・安心に極めて重大な影響を与えるものです。
実際問題として、メディアで大々的に取り上げられていない、老朽化による小規模の事故は発生しているため、今後、インフラの老朽化による事故は大問題になる可能性が大きいと言えるでしょう。
そこで、このようなインフラの老朽化による事故を事前に防ぎ、人々の安全・安心を守るために必要となるのが調査点検業務です。
点検によって経年劣化によるコンクリートのひび割れや、金属の腐食による割れを素早く発見し、劣化・損傷の状況を調査することで、予防保全に繋ぐことができます。
このように、インフラの老朽化が急速に進む日本において、調査点検業務は、今後重要な意味を持つものとなるでしょう。
調査点検業務の内容
ここからは、調査点検業務の具体的な内容について解説します。
調査点検業務の主な内容は、「構造物の点検」、「構造物の調査」、「劣化原因の診断」、「調査報告書の作成」の4つです。
構造物の点検
点検の目的は多岐に渡ります。例えば、構造物の劣化や損傷などの異常を早期に発見するために行ったり、災害や事故時に発生する損傷等を発見し、補修のためのデータを得たりするために行うなどです。
このように、構造物の点検では、さまざまな状況に応じた点検を行うことになります。さらに具体的に見ていきましょう。
完成後の維持管理を目的に、完成した構造物の初期状態の基礎データを取得するために行われるのが基礎点検です。
日常点検は、利用者の安全や第三者への被害や障害となりかねない異常を未然に防ぐこと、構造物の劣化や破損などの異常を早期に発見するために行われます。劣化や破損などの異常は軽微なものであっても、後の重大な事故につながる可能性もあるため、重要な点検作業です。
長期点検計画によって決定され、一定の期間ごとに行う点検のことを定期点検と言います。定期点検では、構造物に接近して目視による点検や、たたき点検を行うことで損傷や劣化を早期に発見し、損傷度や影響を把握することが目的です。
災害時や大きな事故の発生時などに行われるのが臨時点検です。災害や事故によって発生した損傷を早期に発見するだけでなく、補修のためのデータを取るために行われます。
構造物の調査
構造物の点検で確認された破損箇所は、補修の必要性の有無や、補修が必要な場合の補修方法を決定するために調査が行われます。
具体的には、コンクリートの場合には、非破壊試験(テストハンマー試験)や、圧縮強度試験、内部鉄筋の腐食試験などを行い、鋼橋の場合には、金属の腐食や疲労き裂などの調査のため、磁粉探傷試験や超音波探傷試験などにより、劣化や損傷状況の調査が行われます。
これらの調査は、構造物に生じた劣化や損傷の種類に適した方法で行わなくてはいけません。
劣化原因の診断
構造物の劣化や損傷を点検によって発見した場合、なぜそのような劣化や損傷が発生したのかを調べ、診断する必要があります。
具体的には、コンクリートの中性化や、アルカリ骨材反応、綱構造物の腐食による減厚、き裂など、劣化の原因を診断を行います。
コンクリートの中性化は、もともとアルカリ性であるはずのコンクリートが、紫外線や雨にさらされることで、中性化してしまうことでき裂を生じたり、剥離したりしてしまう現象です。
鋼構造物の溶接部分に減厚があれば、強度が保てなくなり、崩落する恐れがあり、重大な事故にもつながりかねません。
これらの劣化の原因を診断しておくことで、適切な補修や保全を行うことが可能となります。
調査報告書の作成
上記の点検や調査、診断を行った際には、調査報告書などを作成し、提出することも調査点検業務の重要な業務です。
どのような劣化が発生しているのか、劣化の程度はどこまでか、劣化や損傷の原因となったのは何かなどのデータは、今後、建造物を造る際や補修の際に活用され、より一層、利用者の安全と安心につながります。
特に、定期点検などは、造作物の適切な維持管理を行うことで、劣化による事故を未然に防ぐための重要なデータとして提出を求められることが多いでしょう。
まとめ
今後20年間で建造から50年以上が経過する構造物が増えると言われている現状で、調査点検業務は重要な位置を占める仕事と言えます。
それは、調査点検業務が、適切な点検、調査、診断を行うことで、社会インフラを利用する人々の安全と安心を守ることにつながるからです。
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